1. HOME
  2. ブログ
  3. 不動産
  4. 不動産M&Aとは?スキームの検討に必要な論点を整理してみました。

BLOG

ブログ

不動産

不動産M&Aとは?スキームの検討に必要な論点を整理してみました。

不動産M&Aとは、不動産を保有する会社の株式を売買する一連の取引のことを言います。

もともとは不動産の保有を目的とする法人(資産管理会社など)が保有する不動産を一括して売買することを目的として、会社ごと売買するということが行われていました。

最近では、事業承継を目的としたM&Aが活発化してきており、その事業承継の案件の一部として不動産M&Aも案件として取り組まれるようになっています。

例えば、地元の老舗の製造業が事業を承継することとあわせて、高度経済成長期の好業績時に会社の資産形成として保有していた土地・建物もそのまま引き継いでもらう、というような背景の案件において、不動産M&Aが成立するようになっています。

ところが、事業承継の場合においては、買い手が承継したいものは本業の事業(中核事業)のみであり、いわゆる非中核事業や資産(ノンコア事業、またはノンコアアセット)まで引き継ぐことには消極的な場合が多いのも実情です。

これに対して、不動産の取得のみを目的とした買い手も多く存在することから、不動産M&Aにはもともとの法人について会社分割を行い、中核事業とそれ以外の資産などに切り分けたうえでそれぞれ事業承継を行うというように組織再編の手続きを伴うことも増えてきています。

今回の記事では、最近になって注目度が高まっている不動産M&Aについて、初めての方が弁護士や税理士に相談する際によく出てくる論点としてどのようなものがあるのかといった観点から概要を整理してみたいと思っています

どのような場合に不動産M&Aが検討されるのか?

それでは、具体的に不動産M&Aはどのような場合に検討されているものなのでしょうか?

必ずしもいくつかのパターンに分類されるわけではありませんが、以下にいくつかの具体例を挙げてみました。

本業ではない不動産事業を本業から切り離して売却する場合

製造業や小売業などの本業以外に不動産賃貸業を営んでいる会社において、不動産事業単体の方が不動産の取得を目的とした買い手に高く売却できることが見込まれる場合に、本業と不動産事業とを切り離して不動産M&Aにて不動産事業を丸ごと売却することが検討されることになります。

株主の手取り額が最大となるような不動産の売却方法を模索する場合

業歴の長い資産管理会社が保有する不動産の含み益が大きくなり、通常の不動産売買では多額の法人税の納付が見込まれるような場合に、株主への利益還元を最大化することを目指して、会社の株式を売却する不動産M&Aが検討されることになります。

相続により顕在化した問題に対処する場合

同族経営の会社において、株式の相続を繰り返すことで会社の株主が多く存在することとなった結果、本業の経営のかじ取りについての意思結集が難しくなってしまっているような場合に、非中核事業である不動産のM&Aにより直接的に株主に利益をいったん還元することが検討されます。加えて、本業の経営に直接関与する少数または特定の株主が別会社にて本業を譲り受け、本業を継続することにより、本業の意思決定の体制をよりシンプルなものに作り替えることができます。

不動産売買と不動産M&Aの違い

通常行われている不動産売買と、不動産M&Aとはどのような点が違うのでしょうか?

細かい違いを上げていけばもっと多くの論点を整理する必要が生じますが、大まかに、不動産M&Aのイメージがつかめる程度の粒度で比較してみました。

不動産の売買 不動産M&A
売買の対象 不動産 不動産を保有する法人の株式
売主の主体 不動産を保有する法人 不動産を保有する法人の株主
買主の負うリスク 不動産に関するリスク
  • 不動産に関するリスク
  • 会社の財務、税務、法務等に関連するリスク(簿外債務の存在等)

不動産の売買において、売主側の最終意思決定権者は不動産を保有している法人(会社)の代表者(社長)ということになりますが、不動産M&Aは不動産を保有している会社の株主が意思決定権者となるため、交渉の相手が異なるという点が一番の大きな違いとして認識しておくべきこととなります。

また、いわゆるデューデリジェンスにおいても、不動産だけではなく、会社そのものの内容を精査する必要がある点も大きな違いとなります。

会社の内容を精査するとは?

会社の内容を精査する、つまりM&Aのデューデリジェンス(以下、「DD」といいます。)を行うにはどのような点を意識すればよいのでしょうか?

まず最初に、会社のタイプに応じてどのような潜在的なリスクが想定されるのか?という点を買主がしっかりとイメージを持っておくことが重要となります。

オーナー企業、ベンチャー企業、多角化経営をしてきた企業、、など、M&Aの対象となる会社の事業内容や業歴、規模、ストラクチャー等に応じてどのような想定されるリスクが存在するかを洗い出し、想定されるリスク項目において優先順位を付けたうえで、特に重要だと考えるポイントを重点的に行うのが大切です。

会社の財務リスクの精査

財務リスクをチェックする目的は、将来予期せぬ費用の支払いや債務の弁済が発生品かどうかをチェックすることとなります。

具体的には簿外債務が存在していないかどうか、第三者の債務に対する保証を行っていないか、またオフバランス項目などでM&Aのクロージングの際には認識しずらい将来の支払い義務が(潜在的なものも含めて)存在していないかを精査することが多いと思われます。

財務リスクの精査においてたまにある議論としては、監査を受けているから財務リスクの精査は不要という主張がありますが、監査はあくまで財務諸表の適正性についてお墨付きを与えているものであり、M&Aの買手が懸念するべき将来の不測の支払い義務が存在しないことを保証してくれるものではないという点は理解が必要です。

会社の税務リスクの精査

税務リスクについては、過去の税務申告が適切に行われているかどうか、言い換えるならば追徴課税のリスクが無いかを確認することが重要となります。

過去にどのような税務対策を行っていたかをできる限り事前にヒアリングしておき、あまりに積極的な税務対策を行っているような場合には、将来の税務調査において買主側がリスクを負うことになるため、買い手側がアサインした税理士の目線で売主が行っていた節税対策の妥当性などについてチェックし、意見を求めることが大切です。

その他、売主と買主双方が良好なコミュニケーションをとれるような案件の場合には、M&A取引にかかわるリスクとして適格/不適格再編による税務メリット等が想定通りとなり得るかどうかという点についての認識をすりあわせておくことも検討してみる価値はあります。

会社の法務リスクの精査

法務リスクについて、M&Aの結果引き継ぐことになる契約の有効性・継続性について確認することや、取引先等の間で訴訟といった紛争が生じていないか、などについて確認をすることが重要となります。

特に既存の契約内容の確認においては、資料開示の段階で付随する覚書等の存在についても売主側に質問をして確認しておくことが重要となります。

また、細かい点としてはチェンジオブコントロールの条項が入っている契約などが無いかについてもあわせて確認をしておいた方が良いかもしれません。

会社の労務リスクの精査

特にM&Aにより従業員の雇用まで引き継ぐ場合には要注意となります。

そうでない場合においても、過去において残業代の未払い等が無いといったことを確認するか、または株式譲渡契約においてリスクの負担についての手当てをしておくのが良いと思われます。

労務管理上の問題を抱える組織を引き継いだ場合、PMI(M&A実行後における事業や組織の統合のプロセス)のフェーズにおいて頭を悩ます種となってしまう可能性がありますが、逆に問題点の有無、その所在をしっかりと把握しておくことで、PMIのフェーズにおける組織の融和が逆にスムーズにいく場合もあります。

不動産M&Aにおける売り手のメリット・デメリット

不動産M&Aにおける売り手(売主)は不動産を保有する法人の株主ということになりますが、不動産M&Aにより、株主にどのようなメリット・デメリットがあるのかを整理してみましょう。

売り手のメリット

メリット1:

不動産に関する契約や会社として締結している各種契約を変更する手間をかけずに、また、会社清算等の手続きも要せずして株主の手元に直接の利益還元が可能となります。

メリット2:

株式譲渡課税のメリットを最大限活用することができ、現物不動産を売買したのちに会社を清算するシナリオに比べて、より多くの利益が株主の手元にて得ることができます。

メリット2については、特に不動産の含み益が大きければ大きいほど、そのメリットも大きなものとなってきます。

売り手のデメリット

デメリット1:

不動産M&Aに慣れている買い手はそれほど多くなく、不動産M&Aでの売却に限定すると、買い手候補のすそ野も狭くなってしまう可能性があります。

デメリット2:

現物不動産に対する価格の決定プロセスと株式に対する価格の決定プロセスが異なるため、買主との間で株式譲渡価格についての値段交渉がタフなものとなる可能性があります。

デメリット2については、不動産売買と比べての税務メリットを売主と買主で按分するべきという軸で交渉を持ちかけられたり、または、不動産だけではなく会社としてのリスクを引き受けることになるのでそのリスクに見合ったディスカウントがなされてしかるべきといった交渉が持ちかけられるなど、通常の不動産とは異なる論点で買主と対峙することになります。

この点の対応としては、売主としての情報開示の準備や案件の前提となる条件として整理しておくなど、先手の対応について十分な検討が必要となります。

不動産M&Aにおける買い手のメリット・デメリット

買い手のメリット

メリット1:

不動産売買の際に必要となる登録免許税、不動産取得税、その他の各種登記費用が不動産M&Aでは発生せず、購入費用を抑えることができるため、価格競争力が高まります。

メリット2:

通常の不動産売買の市場に出回る情報とは別のルート(M&Aの仲介マーケット)にて情報を収集することができ、物件取得のチャンスを広げることができます。

メリット2については、まだまだ不動産M&Aについて深い知見を持つプレイヤーが限られている中で、他の競合にはない専門性をアピールすることができるようになります。

買い手のデメリット

デメリット1:

不動産だけでなく、会社としての各種リスク(簿外債務や過去のトラブルに起因する訴訟リスク等)を引き受けることになる可能性があります。

デメリット2:

不動産についても、重要事項説明書等の作成がなされない場合もあり、売主の開示情報とあわせて独自に不動産についても情報を収集し、リスク分析をする必要があります。

デメリット2について、不動産M&Aによる株式の譲渡の取引は宅建業法の規制対象の枠組みから外れるものとなるため、必ずしも間に宅建業者および宅建士が入り重要事項説明書等の資料開示がなされない場合もあります。

従いまして、買主としては譲り受ける会社内容を精査するだけでなく、不動産そのものについても売主の開示資料だけに依存せず、自ら情報収集をするというスタンスが求められてきます。

(不動産M&Aに関する法令の規制についてはまた別の記事において整理したいと思っています。)

 

不動産M&Aに関連する知っておくべき税務上の論点

不動産M&Aを成功させるためには、税制についての理解が不可欠となります。

買主は不動産の取り扱いに長じた法人であることが一般的であるため、とりわけ、売主が個人の場合においては売主にとって有利な取引となる枠組み(スキーム)なのかどうか、スキームの内容をよく理解した上で、税務上の論点について的確に税理士にアドバイスを仰ぐ必要があります。

また、不動産M&Aのスキームにも税制改正に伴いトレンドがあるため、各トレンドとその背景にある税制改正の概要を理解しておくことで、税務上の論点理解の助けになると思われます。

不動産M&Aスキームのトレンドと税制改正の流れ

不動産M&Aスキームのトレンド

不動産M&Aの黎明期というか、一番シンプルなスキームとして、物件の簿価と時価を比較して大きな含み益を抱える場合に、当該含み益が不動産売買により実現することから生じる課税(法人税、住民税及び事業性の課税)を繰り延べる効果を期待したものが多く取り組まれました。

不動産M&Aにおいては不動産の所有者が変わらない(当初の法人のまま)ことから、上記の含み益に対する課税だけでなく、不動産取得税や登録免許税の節税効果も期待されました。

これらの取引では、当事者の多くは不動産会社が行うというイメージがありましたが、M&Aという言葉が広く世間に受け入れられるようになると、不動産事業を本業としない事業会社や、相続・事業承継の対策を行いたい中小企業等のオーナーが当事者となる案件も増えてきました。

具体的には、事業の選択と集中の為に不動産M&Aの対象となる部分と本業として継続して取り組む事業に関連する資産および不参をそれぞれ切り離してから、不動産M&Aを行うというスキームや、事業の承継を目的として承継対象となる事業とそれ以外の不動産事業とについての資産および負債を切り離してから、それぞれをM&Aにて第三者に承継させるというスキームが多くみられるようになりました。

税制改正の流れ

上記のスキームのトレンドの変遷の背景に、税制改正の影響があります。

平成29年度の税制改正では、組織再編に関する税制が改正され、M&Aの対象となる資産および負債とそれ以外の資産および負債とを切り離してから、M&Aの対象としたいものだけをM&Aする手法がやりやすくなったと言われています。

また、平成30年度の税制改正では、事業承継に関する税制が改正され、改正前よりも利用しやすい制度となりました。事業承継税制の適用を受けるケースが今後増えていくと予想される一方で、将来的に不動産M&Aによる不動産事業のエグジットの可能性がある場合には、事前に十分な検討が必要となっています。

不動産M&Aと組織再編税制に関する論点

平成29年の税制改正では、分割型分割における税制適格要件が見直され、不動産M&Aの一連の取引スキーム構築にあたり、会社分割をベースとしたものを選択しやすい素地が整備されました。

具体的な改正のポイントとしては、分割型分割に関して支配関係継続要件の見直しが行われたことが挙げられます。

改正前は、株主と分割法人及び分割承継法人との間の関係が継続することを要求していたのに対し、改正後は、株主を分割承継法人との間の関係が継続することのみが求められ、株主と分割法人との間の関係が継続することまでは要求されないことになりました。

つまり、株主としては会社分割をした後に分割法人に対する持分(株式)を第三者に譲渡しても、会社分割が適格分割型分割としての要件を満たせることとなりました。

ここで実務上の観点から理解しておくべきことは、不動産M&Aの対象となるアセットは分割法人が保有する形となるように会社分割を行わなければならないという点にあります。

言い換えるならば、不動産M&Aの対象外となる事業や資産を分割承継法人の保有とするように切り出し、分割承継法人の株式を株主は継続して保有することになるという訳です。

さらに追加的に、平成29年の税制改正において不動産M&Aの対象外となる事業・資産を簿価で切り離してから株式を譲渡する取引が容易になりましたが、不動産M&Aの対象外となる事業・資産を時価で切り離す会社分割の方法もあります。

不動産M&Aの対象外となる事業・資産を時価で切り離すには、「分社型」分割を行い、分割承継法人に対象外の事業・資産を保有させたうえで、分割承継法人の株式を(分割前の)株主に譲渡し、分割法人の株式を不動産M&Aの買主(買収者)に譲渡する流れとなります。

話を纏めますと、平成29年の税制改正において、不動産M&Aの売主としては会社分割をする際に対象外となる事業・資産を切り出す際に簿価で切り出すのか、時価で切り出すのかを選択しやすくなったということを理解しておくことが重要です。

この理解を踏まえて、不動産M&Aの対象となるアセットと、対象外となる事業・資産それぞれに含み益や含み損がどのように見込まれるのかを整理しつつ、どの分割形態をとるのが良いのかという有利不利の判定を税理士に相談しながら進めていくことが重要になります。

 

平成29年税制改正についての参考資料としてこちら(財務省 平成29年度税制改正の解説)もご参照ください、(332~335ページ辺り)

不動産M&Aと事業承継税制に関する論点

事業承継税制についての枠組みそのものの説明はこの記事では割愛させていただき、この記事では平成30年の改正点の整理と、それを踏まえた不動産M&Aに対する影響についての概要を整理したいと思います。

もし事業承継税制の基本的な枠組みを理解したいという方は、「事業承継税制」というキーワードでyoutube等の動画を検索してみることをおすすめします。

税理士の先生が解説をしておられる動画をいくつか視聴された後にこちらの中小企業庁の資料を是非参照してみてください。

平成30年の事業承継税制の改正のポイントは以下の3点となり、これにより以前よりも利用しやすい制度となりました。

事業承継税制の改正点

  1. 税額全額を繰延が可能(改正前は80%が上限)
  2. 後継者を3人まで選べる(改正前は一人のみ)
  3. 雇用維持要件の撤廃(改正前は雇用の8割を5年間にわたり維持することが必要)

不動産保有会社が事業承継税制の適用を受けるためには

原則として、不動産のみ保有するような資産保有型会社と位置づけられる法人は事業承継税制の適用を受けることができません。

ただし、一定の要件を満たした場合には適用を受けることができのですが、一般的によく検討されているのは、親族外従業員の数が5人以上であるという要件を満たすことにより、事業承継税制の適用を受けられる場合があります。

事業承継税制と不動産M&Aとの関係について

事業承継税制と不動産M&Aの関係について、主に以下のケースについて理解しておく必要があります。

事業承継税制の適用を受けた法人が不動産M&Aになる場合

事業承継税制の適用を受けている法人が、不動産M&Aの一環として、M&A対象外の事業を会社分割により切り離してから会社を譲渡する手法を採った場合には、株式を譲渡したことにより、納税猶予の期限が確定することになります。

つまり、事業承継税制により支払いが猶予された税及び利子税を支払う必要が生じてしまいます。

さらにこの場合には、本業を切り離して不動産だけを保有することになった法人の株式を譲渡しただけの取引となることから、譲渡対価の額を基に納税額を再計算することができる要件場合(経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合)にも該当せず、猶予されていた税額を満額納税する必要が生じる可能性が高い点も留意が必要となります。

したがって、事業承継税制の適用を受けた法人にとっては、非中核事業となった不動産賃貸事業を本業から切り離して株主に譲渡益を直接還元したいというシナリオが制限されることになり、単純に不動産を第三者に譲渡することが現実的な対応となってきます。

M&Aを行った後に事業承継税制の適用を受ける場合

M&A対象外の事業を会社分割により切り離してから、不動産M&Aにより不動産を保有する法人の株式を譲渡した場合には、M&A対象外の事業を営む法人について、事業承継税制の適用を受けることができるかを検討することになります。

この場合、株式分割の手続きの一環としてM&A対象外の事業を営む法人の株式にかかわる贈与税の納税猶予の特例は、後継者が贈与の日まで継続して3年以上にわたりその法人の役員その他の地位を有していることが必要になります。

そのため、不動産M&Aを実行した後、上記の要件を満たすようになるまでの期間を過ぎてから、事業承継税制の特例の適用を受けることになるという点に留意する必要があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回の記事では、初めて不動産のM&Aを検討するという方に対して、弁護士や税理士の先生と適切に相談ができるようになるために知っておくべき論点を整理してみました。

今後も、継続して各論点を深堀する記事も公開していきたいと思いますので、どうぞ引き続き宜しくお願い申し上げます。

関連記事