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不動産M&Aと宅建業法の関係は?不動産業者として理解すべき不動産M&Aの許認可等の規制について

不動産の譲渡を目的とした取引においても、譲渡を実行する手段として不動産を保有する会社の株式を譲渡する形式、いわゆる不動産M&Aの形式の案件が最近では増えています。

不動産の譲渡をM&Aの形式にて進めていく場合、売主と買主の間に入る宅建業者として通常の不動産の売買の案件とはその進め方や業務の内容が大きく異なってきます。

不動産M&Aとして案件を進めていく場合には、宅建業者としての業務ではなく、いわゆるM&Aアドバイザリー業務に従事することになるため、宅建業者としては通常意識している宅建業法以外にも理解しておくべき法規制等があるのではないか?といった疑問が湧いてきます。

今回の記事ではそもそもとして「M&Aアドバイザー業務を宅建業の免許だけでも受託できるのか?」という疑問から、宅建業者として不動産M&A案件にかかわる場合に留意しておくべき法規制やコンプライアンスの論点について整理してみようと思います。

今回の記事では、宅建業者の方々が初めて不動産M&Aを手掛けるような場合や、今後不動産M&Aの実績を作っていこうと検討されている場合に、理解しておくべき許認可に関する整理、そして広くコンプライアンスの観点から理解しておいた方が良い論点等を整理してみたいと思います。

因みに、一般的にはM&A仲介業務という言い方をすることも多くありますが、宅建業における不動産仲介業と区別しやすくするために、本記事ではM&A仲介業務という言い方はせずに「M&Aアドバイザリー業務」という言葉で統一するようにしたいと思います。

一般的なM&Aのアドバイザリー業務(M&A仲介業務)とは?

不動産を単なる売買ではなく、不動産を保有する法人の株式を譲渡する形で取引する場合、宅建業者は不動産売買の媒介ではなく、M&Aのアドバイザリー業務を受託する立場で対応していくことになります。

このM&Aアドバイザリー業務が具体的にどのような業務内容となっているのか、最初に確認しておきたいと思います。

  • (買主の)候補先の紹介及び斡旋
  • 候補先の業務、財務および経営戦略に関する情報の提供
  • (売主側の株主が)取引の是非を検討及び決定するに際しての助言および補助
  • 候補先またはその親会社もしくは株主に対する取引の提案
  • 取引の交渉への立会い
  • 取引のスキーム、価格その他取引にかかる助言
  • 取引の推進に必要な資料、企業概要書、諸手続及びスケジューリング等にかかる助言並びに補助
  • その他上記に付随するサービスの提供

出典:中小企業庁 M&A仲介業務委託契約書サンプル (リンク資料の32ページ)

この記事では、上記の業務内容を前提として話を整理していきたいと思います。

表面的にM&Aアドバイザリー業務だといったところで(単に契約書のタイトルが「M&Aアドバイザリー契約」と称されているだけで)、実際の業務内容が上記の一般的な枠組みから逸脱したようなものである場合には前提が異なり、思わぬ形で許認可の問題や法律の規制を受けることにもなりかねません。個々の案件において具体的な業務内容が明らかにできた段階で適宜弁護士に相談し、確認をされることをおすすめいたします。

M&Aアドバイザリー業務を行うのに許可・免許等は必要なのか?

結論から言うと、前項で挙げられたような一般的な内容のM&Aアドバイザリー業務を行うにあたって、特に許可や免許等は必要ありません。

中小企業庁が令和2年3月に出している「中小M&Aガイドライン」においても、以下のように記述されています。

士業等専門家については法令において資格要件、業務内容、善管注意義務や刑罰等が明確にされている(各専門家団体における懲戒処分等による制裁も存在する。)ものの、M&A 専門業者については、許可制・免許制等は採用されておらず、業界全体における一般的な法規制も存在していない(例えば、不動産取引においては、宅地建物取引業法の規制が存在するが、M&A 専門業者についてこのような法規制は存在していない。)

「中小M&Aガイドライン」52頁

しかしながら、不動産M&Aということになると、M&A取引の手段として株式譲渡が行われるケースが殆どだと思いますが、株式の売買の媒介をするという意味では金融商品取引法の規制を受けないのか、この点はよく話題に挙がるところとなります。

金融商品取引法との関係について

M&Aアドバイザリー業務が金融商品取引法のライセンスを必要としないという結論は上記の通り中小企業庁などによる公表資料に掲載されているとおりですが、なぜ金融商品取引法の登録を必要としない結論となっているのか、その理由・背景をしっかり理解しておくことはクライアントに対して適切なサービスを提供するためにも非常に大切です。

単に結論しか知らないとなると、気が付いたら通常のアドバイザリー業務からは逸脱したサービスを提供していることになり、金融送品取引法の登録が必要となるサービス内容となっていた、、というような事態になるかも知れません。

また、理由・背景をしっかり理解しておくことで、金融商品取引法が一貫して求めている顧客保護の観点から対応すべき事項や、その他のコンプライアンスの論点に対しても遺漏ない対応ができるようになり、結果としてクライアントに良い取引を提供できることにつながるものと思われます。

第一種金融商品取引業、および投資助言業務との関係

金融商品取引法において、株式の売買の媒介を業としてことは第一種金融商品取引業に該当(第28条1項1号、第2条8項2号)し、内閣総理大臣の登録を受けることが必要(第29条)となります。

また、当事者の一方が、相手方に対し、有価証券の価値等、又は金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に関し、口頭、 文書その他の方法により助言を行うことを約し、相手方がそれに対し報酬を支払うことを約する契約を締結し、その契約に基づき、助言を行う行為を業として行うことを投資助言業務として規定(第28条3項1号、第2条8項11号)し、内閣総理大臣の登録を受けることが必要(第29条)としています。

不動産M&Aの場合でも、具体的な業務のイメージと照らし合わせると、上記の第一種金融商品取引業や投資助言業に該当するような気にならないでしょうか??

この疑問について、法的に整理された書籍や論文がありますので、自分なりにクライアントから質問を受けた場合においてもきちんと説明できるロジックを理解しておくことは非常に有意義なものとなります。

金融商品取引法において付随業務と位置付けられるM&Aアドバイザリー業務

第一種金融商品取引業社(証券会社)によりクライアントに提供される業務の内、M&Aの相談や仲介は「付随業務」として規定されており、M&Aアドバイザリー業務はこれらの付随業務に該当するものと解されています。

また、銀行法における銀行業務の範囲を定めた規定においても、M&Aアドバイザリー業務は銀行の「その他の付随業務」として位置づけられる(銀行法10条2項)ことが明確になりました。

これは地方銀行を始めとした銀行による地域企業のリレーションシップバンキングの機能を強化する必要があるという時代の流れの中で明確化されたと一般的に理解されており、銀行単体で積極的にM&Aアドバイザリー業務を推進していくことを後押ししたものとなりますが、一方でこれらの業務が金融商品取引業の免許を必要とすることになれば、銀行業務の付随業務として整理した趣旨と矛盾してしまうことになります。

これらの理解を踏まえ、M&Aアドバイザリー業務はそれぞれ付随業務に該当するものであり、第一種金融商品取引業および投資助言業務そのものには該当しないと理解されています。

宅建業者として、なぜ金商法のライセンスを持たずに不動産M&Aに取り組めるのか?という疑問に対して、実務的には上記のレベルで理解できておけば十分のような気もしますが、さらに本質的な理解を掘り下げるにあたり、大変参考になる資料がありましたのでご紹介させていただきたいと思います。

論文名:■実務問答金商法 第21回■ M&Aアドバイザリー業務の位置づけ-金融商品取引業との関係を中心に-
執筆者:有吉尚哉 弁護士、大越有人 弁護士
掲載誌:旬刊商事法務
号数/頁数:2020年09月15日号 No.2241 56~65頁
出版社:商事法務研究会

宅建業法との関係について

不動産M&Aにおいては、最終的に株式の譲渡が実行されることになることから、宅建業法による規制の範囲外の取引となります。

しかしながら、形式的には株式の譲渡とはなるものの、案件の本質としては不動産という資産の価値に着目した取引であることから、当該取引の売主と買主の間に入る宅建業者として買主を始めとした当事者の利益の保護を図るための対応を最大限に行う必要があります。

その意味でも、取引当事者の利益の保護と宅地および建物の流通の円滑化を図ることを目的として必要な規制を定めた宅建業法の趣旨が実現されるべく、宅建業法の直接的な規制を受けない取引であったとしても、その要求する顧客保護のための対応を行うことが、間に入る業者としての善管注意義務を果たすことにつながります。

その意味においても、不動産M&Aにおいても売買の対象となる法人が保有する不動産について、その情報を宅建業法の趣旨に従い重要事項説明書と同レベルの説明責任を果たせるように宅建業者としては対応するべきだと思われます。

仲介の報酬として宅建業法の規制を受ける場合は凡その場合において不動産価格の3%相当額(+6万円、税別)が上限となりますが、不動産M&Aの場合においては通常の不動産売買よりも業者の負荷がかかるとの理由から3%以上のフィーを提示することもあるかと思います。

そのようなフィー水準の設定からしても、宅建業者としての不動産取引に準ずる物件のリスク情報開示等については当たり前のように対応をすることがクライアントの求めるサービスのレベルだと理解して対応していきたいものです。

コンプライアンスの観点から留意しておきたいこと

これまで、M&Aアドバイザリー業務に関する法規制等について整理してきましたが、コンプライアンスの観点から留意しておくべき点を整理してみたいと思います。

案件に応じて、情報の取り扱いに関するウォールの問題などM&Aにまつわるコンプライアンスの論点は多くありますが、この記事では先にも紹介しました中小企業庁が出している中小M&Aガイドラインにおいて取り上げられている論点を中心にご紹介したいと思います。

利益相反のリスクについて

実際問題として仲介の立場として案件にかかわる場合、宅建業法ではいわゆる両手取引が認められていますが、一般的には売主・買主の双方に対して仲介・M&Aアドバイザリー業務を提供するような場合には利益相反の問題が生じます。

具体的にどのような対応を取るべきかは個別の案件の特性により異なるところがあるかも知れませんが、以下のような対応を取ること等して、利益相反のリスクをより最小限のものとするように努める必要があります。

  • 売主側・買主側の両当事者から報酬を得るような立場となる場合には、各当事者との契約書においてその旨を明記して両当事者に伝える。
  • 譲渡対象の価値評価、デュー・ディリジェンスといった一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定づけることはせず、士業等の専門家の意見も求めるよう伝える。
  • 一方の当事者から入手した情報で他方の当事者の利害にかかわるようなことは適時に明示的に開示し、特定の当事者の利益を考慮して情報を握りこんだりすることをしない。

専任条項について

売主側とのアドバイザー業務委託契約において、他のアドバイザー等への業務を依頼することを禁止する条項(専任条項)が設けられることがありますが、売主側にとって適切な意思決定をするための情報・知見の収集の機会を妨げることになっては思わぬ不利益をクライアントにもたらすことにつながってしまうことから、以下のように柔軟に対応することも検討が必要です。

  • 他の専門業者や専門家に対してセカンド・オピニオンを求めることを許容する。
  • セカンド・オピニオンを取得するために開示した情報が漏洩してしまうことを防ぐため、セカンド・オピニオンを許容する場合の前提として秘密保持義務がある業者に限定するなど、セカンド・オピニオン取得の自由度とクライアントを守るための制限のバランスをとる。
  • 専任条項の期限を定める。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

宅建業者でも今後は不動産の譲渡の手段としてM&A(株式の譲渡)の形式をとるような案件の対応をしていく機会も増えていくことと思います。

この記事で整理できたことは必要な法規制、コンプライアンスの論点として全てではなく、また、今後も法規制などについては変更もあり得るものと思われます。

不動産M&Aの適切な事例が世の中で増えていくためにも、宅建業者として適切に対応できるための知見を今後も磨いていきつつ、また追加の記事でも発信していきたいと考えています。

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